恵那笠置山の中腹に移住してきた当初から、「この斜面は大丈夫か?」と不安を感じていました。関東の平地で長いこと過ごしてきた僕たちは、こんなに斜面の多い地域に住んだことがないのでよく分からないのです。リフォームを担当してくれた設計士さんにも相談したのですが、「あまりよろしくはないですね~」と渋い表情で言われていました。
引っ越したばかりの我が家 |
斜面が崩れ落ちそう? |
排水をパイプでコントロールしてみたが・・・ |
それでも最も危険を感じたのは冬です。雨は少ないけど、その分気温がマイナス10℃にもなるこの地方では毎朝毎晩猛烈に霜柱が立ちます。それが昼間気温が上がって霜柱とともに盛り上がった土が崩れ落ちます。この現象をこの地域では「凍み崩れ(しみくずれ)」と呼んでいます。
我が家の近所で起きた、凍み崩れによる落石 |
U字溝を破壊し、道路に飛び出した石 |
このままでは斜面がどんどん後方に下がって、最後には家が崩れてしまいます。地元の石職人さんに相談したら、「これは何とかせなあかん」と石垣の積み方の要領を教わりました。
自分は庭師でありながら、それまで石積みに関しては全くの素人でした。関東は広い平地なので石垣という文化がありません。古い石垣と言ったら江戸城か小田原城しかないのです。
それに対して、傾斜地の多いこの地域では太古の昔から田畑や家を作るのには、まず石垣を積んで土留めをして平らなところを作ることから全てが始まるのです。一定以上の世代の人は、職人でなでなくとも誰もが石垣を積みます。石の産地である笠置山周辺では特に、石屋さんも庭師さんも建築さんも、みな石積みは名人級です。
笠置の一般的風景。田んぼに石垣・家に石垣 |
石垣というのは自然と人との共存という意味では最高の発明の一つです。石垣は上手に積めばコンクリートよりも強度が高いのです。なんと言ってもこの地域の石は何千万年も前にできた物です。コンクリートの寿命は数十年ですが。そんな物より風化のスピードが全然違うのです。水や空気を通すので災害にも強く、生き物も生息できて自然に優しいのです。
壁面の自然の模様も素敵でしたが、何せ崩れちゃうので。 |
切り石あり、自然石あり、石種も様々 |
そういうわけで、あまり上手下手にこだわらず、とにかく行けるところまで積んでみようと始めました。
東濃地方は石が多いため、人家の周りや色んな会社の土場、建築現場などに石が積み上げてあります。石の裏には裏込め石という細かい石を入れるのですが、それは田んぼの周りに積んであるお宅が多いのです。それらを頂いて回りました。
それらの石を自宅に持ち帰って転がしておくと、妻が細い腕でチョコチョコと積んでくれます。色んな場所から頂いた石なので、色も形も様々で、ある種モザイクアートのようになりました。石積み作業は有効な土木作業であると同時に、「石を使ったパズル」で、ジグソーパズルやレゴなんか比べ物にならないほど自由度の高い、楽しい大人の遊びでもありました。
脚立や足場板を使って裏込め石を詰める様子 |
都会ではお金を払って誰かにやってもらうのが当たり前の生活をしてきましたが、今では僕たちもこちらの人たちのように、お金をかけずに自分たちで工夫する方法を探るようになってきています。